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おそらく北側に位置する部屋なのだろう。
淡い日の光が差し込んでくるだけで、部屋全体としては薄暗い。
見渡せば、無駄なものは一切無く、必要最低限なものだけでただ整然としていた。
ここがタケノコ家人の部屋か?
らしいといえばらしいけど。
ちなみに当の室の主本人は、部屋の入り口に立つ自分の気配にも気付かないほど寝入ってしまっている様で、簡素な寝台の上で静かに寝息を立てている。
仰向けに倒れている身体の周りにはいくつかの書物が散乱していた。
あれはもしかして・・・・
好奇心に駆られて、後で確実に絞め殺されるだろうが、それも覚悟の上で無断で室内に入ることにした。
起こさないように慎重に近付き、散ばる書物のうちの1つを手に取って見る。
無論、男として当然持っているだろうものを期待したのだが。
「・・・・なんだ、桃色草子じゃないじゃん」
少々、いやかなり拍子抜けして、その書物を放り捨てる。
「なんだよ、この難しそうな題名・・・・わけわかんねー」
手に取るもの、手に取るもの全てが期待を裏切っていく。
最後の望みをかけて、寝台の下を覗き込んだが――――やはり何も無かったのは言うまでも無い。
桃色草子一冊でも見つかれば、弱みを握れると期待したのだ。
愛しのお嬢様には絶対に知られたくない秘密だろうし、そうすれば、普段のように苛められることも無くなるはずだ。
・・・・現実はそう甘くは無かったが。
それにしてもだ。
あのタケノコ家人がこうしてうたた寝してしまっているのも珍しい。
しかもこんな近くにいる自分のことにも気付かない。
顔を覗きこんでみても、やはり起きる気配は無かった。
「・・・・ほんと、性格はドSだけど顔だけはいいんだよな」
紅秀麗の前ではやたらと格好付けだし。
でも、確かに黙っていれば見とれるほどに整った顔立ちをしているのだ。
長い睫に通った鼻筋。
肌だって武官とは思えないほどに色白である。
その上、幻想的な紫銀の髪と男にしては線の細い体つきも相俟って、まさに生き人形のようだ。
自然と手がその髪に伸び、掬い上げたその一房の柔らかさに驚いた。
そうして我知らず間近でまじまじと観察していると、不意にその身体が微かに身じろいだ。
(げっ!タケノコ家人が起きる!?)
早く逃げなければ、絶対に絞め殺される。
慌てて身を翻そうとしたそのときだった。
甘い香りが鼻腔を擽った。
思わずタケノコ家人を凝視していると、誘うようにその薄い唇が僅かに開かれ、そこからあえやかな吐息が零れた。
不意に、心臓が高鳴った。
気付いたときには既に身体が動いていた。
身を屈め、引き寄せられるようにゆっくりと首が垂れてゆく。
そして。
唇と唇が触れ合うその寸前――――ぱかっと開いた翡翠の瞳とぶつかった。
沈黙。
「た、たたた、タケノコ家人!?お、おき――――!!?」
先に沈黙を破ったのは蘇芳の方だった。
悲鳴に似た叫び声を挙げながら、普段のタラタラした動きとは比べものにならない速さで静蘭との距離を置く。
微かに顔を赤らめながらも、背筋を滝のように汗が伝った。
それに驚いた静蘭も、意識を完全に覚醒させて跳ね起きた。
「は・・・・えっ、タンタン君!?」
今の状況を把握すべく、すぐさま頭を回転させる。
そんなバカな!!
固まったままの状態で、二人ともほぼ同時に心の中で呟いた。
(お、俺、今何をしようとした!?相手はタケノコ家人だぞ!!)
(こんな近くにタンタン君がいるのに、全く気付かなかったなんて・・・・)
内容は違えど、お互いにかなりの衝撃を受けているようだった。
蘇芳は当然先ほどの自分の行動が信じられなかったし、静蘭といえば、自分がうたた寝してしまったこともさることながら、室内への侵入者の気配に全く気付かなかったという事実も衝撃的だった。
公子時代から身の危険のある環境に常に置かれていたためか、たとえ寝ている時であっても、気配には異常なほどに敏感だったのだ。
それは静蘭となった今でも抜けることは無く、例えば秀麗が室内に入ってきたとしても、すぐに目を覚ますことが出来た。
それなのに――――。
・・・・どうやら、蘇芳の気配は悉く自分を油断させるようである。
だいたいお嬢様の前でさえ本音が駄々漏れになるのだって、蘇芳が傍にいるせいなのだ。
静蘭は深い溜息を吐いた。
「・・・・アンタ・・・・」
不意に蘇芳がうわ言の様に呟いた。
静蘭何事かと視線を蘇芳に向ける。
「アンタ、ひょっとして女よりも男に言い寄られる方が多かったりする?」
「・・・・はぁ?」
何を言い出すんだ、こいつは。
言われた瞬間は意味を理解できずに訝しげに眉根を寄せたが、唐突に理解した刹那、静蘭のこめかみに音をたてて青筋が走った。
「あ、やっぱ図星?そうか、アンタは男色専門か。道理で桃色草子に興味が無いわけだ。」
「・・・・いい度胸してますね、タンタン君?」
それを見た蘇芳が納得したように頷いた瞬間、この上も無い極上の笑顔を浮かべた静蘭の目に、はっきりと殺意が宿る。
けれど、蘇芳は静蘭が剣の柄に手を掛け、今までに無いほど凄まじい殺気を放っているのにも気付かずに一人もんもんと考え込んでいた。
どう考えても、このタケノコ家人はいろんな意味で危険だ。
全くその気が無かった自分にでさえ、あんな行動を起こさせたのだ。
タケノコ家人の本性を知らない相手なら、確実にやばい。
――――あれ?俺本当にタケノコ家人に何にも感じてなかった?
不思議なことに、突然そんな疑問が頭の中に浮かんだ。
感じるって一体何を?
更に分からない所に嵌ってしまった。
しかし、突然異様な気配を感じて、タケノコ家人に視線を向けると――――今まさに、切りつけくるところだった。
「・・・・って、何でアンタはそう簡単に剣を抜くかな!?」
「いえ、今晩の夕食には是が非でも狸鍋が食べたいと思いまして。」
「その夕食に俺は呼ばれてるんだっつーの!!」
「お嬢様には『タンタン君は旅に出た』と伝えておきます。ええ、大丈夫です。お嬢様がおいしく調理してくださいますよ。保証します。」
「何にも全然大丈夫じゃねーし!!」
静蘭とのやり取りの合間に蘇芳は思った。
このタケノコ家人にだけは絶対に何か特別な感情を抱くはずが無い――――と。
さっきのは、絶対に気の迷いだったのだ。
それとも、タケノコ家人の魔力か何か。
そうでなければ、こんな相手に惑わされるはずが無い。
絶対に惑わされるはずがないのだ――――。
蘇芳がそう確信した瞬間、ひらめいた剣先に蘇芳の絶叫が天高く響き渡ったのは――――言うまでも無い。
はは、何で初BLがタン静なんでしょうね?
とりあえず、私的にタンタンは恋愛方面疎くて、無意識に静蘭のことが好きだといい。
しかも、静蘭はタンタンに油断しまくりですからチャンスありすぎですよ。
BLに関してはこんな感じのぬるい作品中心で頑張ります。
夢鳥
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