難攻不落な人

初めての印象はこの上もない程最悪だった。
うっとりするくらい綺麗な顔をして、性格の悪さは天下一品。
女の子と間違えるくらい華奢で、うっかり近付いてしまって、予想外の大怪我をしたことを覚えている。
全く、質が悪いったらない。
これで一目惚れだなんて・・・・。


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「静蘭、君は私にはどうしてそんなに冷たいんだろうね?」
ぽろっと、そんな一言を漏らしたら、すかさず絶対零度の眼光が飛んできた。
「いや、ほら、ちゃんと藍家より主上を選んで帰ってきたのに、何時までもその態度が変わらないのもどうだろうかと思ってね」
「おや、その前に散々悩んで主上をこれでもかと放置しておきながら、まるで自分はいい事をやったかのような口を利かれるのですね?」
「・・・・」
本当になんでこんなに自分は彼に恨まれているのだろう。
ちょっとどころか、大分悲しい。
「確かに藍家よりも主上を選んで戻ってきたことは、多少評価に値しますが。」
「・・・・多少、ね・・・・」
「何か文句でも?」
「いえ、ありません」
楸瑛は冷や汗を流しながら、即答した。
そんな爽やかな笑顔で言われるよりも、ギロッと一睨みされた方がまだましだと何時も思ってしまう。
もっとも、本人はそっちの方が威力があると知った上での狼藉なのだが。
というか、たとえ藍の名を捨てたとしても自分の方が未だ地位は高いはずだ。
何故自分が見下されているのだろうか。
彼を前にすると何時もいろいろと可笑しい気がするのはきっと気のせいではない。
「でもね、静蘭・・・・私もちょっとくらいご褒美が欲しいんだよ」
「そうですか、なら、うちにあるゴミを差し上げますよ。少しでも使えるものは限りなく選別してあるので、本当のゴミの中のゴミだけが残ってます。どうです?あなたにとっては物珍しい立派なご褒美でしょう」
どこがだ。
ようは、『ゴミ捨てを手伝え』と、いうことじゃないか。
楸瑛は遠い目をした。
「・・・・分かったよ。ちゃんと頂いておくよ」
もうこの際何でもいい。
彼の中ではどうせ何をやっても役立たずのままなのだと、うすうす理解してはいたが、改めて認識させられた。
塵も積もれば山となる。
小さいことから始めて少しずつ株を上げていこう、と自分の健気さに内心涙を拭いながら、楸瑛は彼曰くの『ご褒美』受け取ることを承諾した。
静蘭は当然、とでも言う様に鼻を鳴らすと、そのまま無言で楸瑛から完全に興味を失ったように視線を逸らした。
「・・・・静蘭」
「なんですか、藍将軍」
「さすがの私も傷つくのだけれど」
「そんなに繊細な方だったとは、初耳ですね」
「・・・・静蘭」
「なんですか」
「本当に褒美の一つも無いのかい?」
盛大に顔を顰めて静蘭は、はぁー・・・・、とうんざりした様に大きく息を吐いた。
大体なんで私が。
「あなたも大概しつこいですね。いいですよ、何が欲しいんです?言っておきますけど、今の私にはあなたのお目がねに適うような高級な品、持ち合わせていませんよ」
「いや、そんなものはいらないのだけど・・・・」
楸瑛が言いよどんだのを聞き咎めて、静蘭は訝しげに眉根を寄せた。
「なんです?はっきり言ってください」
「・・・・怒らないかい?」
「あなたには私がそこまで鬼に見えるんですか」
賢明な楸瑛は正直に、見える、とは言わなかった。
「何なんですか。いらないなら、いいですよ、別に。頂くものはあっても差し上げるものなんてありませんし」
「ちょ、ちょっと待った、静蘭!言うから!今、言うから!!」
吐き捨てて歩き去ろうとした静蘭を素晴らしい早業で腰を抱いて引き寄せ、そのまま頤に手を掛け仰向かせると、耳元で甘く囁いた。

「濃厚なキスを一つ」

刹那、楸瑛はあまりの激痛に飛び上がった。
「せ、静蘭!!君、君という奴は、大事な人の息子に、なんて事を・・・・っ」
「ふざけたことをぬかしやがるからですよ!!この、万年常春将軍が!!」
お嬢様に教えた、変な男対処法を何故、自分が実行しなければならないのか。
こっちが泣きたい位だ。
急所を押さえ、涙目で飛び跳ねる楸瑛を尻目に、耳を押さえながら腰に佩いた剣をスラリと抜き取ると、静蘭はゆっくりとそれを構えた。
まずい。
あの殺気は本物だ。
普段ならまだしも、急所をやられて身悶えている今、確実に殺される。
「静蘭、落ち着くんだ!」
「えぇ、落ち着いてますとも。・・・・藍将軍、あなた、いっぺん死んでみます?喜んで冥府に送って差し上げますよ」
「いや、遠慮するよ。というか、これでも私は君の上司・・・・」
「問・答・無・用」

これでも自粛して、『静蘭、君が欲しい』とは言わなかったのに・・・・!
と、いう楸瑛の心の叫びは、目の前で剣を振りかざした麗人には微塵も届かないのだった。
――――ああ、なんて難攻不落な人なのだろう。



実は二作目の藍シ。
でも一作目は取り消したので、もう存在しないのです。
塵も積もれば山となる、といいながらも、いっきに自分の株を落とす藍将軍。(笑)
藍将軍がへたれとはいえ、静蘭に酷いことをさせてしまいました。(汗)
同じ男なのにね。(=v=)
藍シは楸瑛のへタレ攻めがいいのです。

夢鳥

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